葛糸について〈自由研究〉

2022年3月に開催した企画展『靭皮繊維(じんぴせんい)に魅せられて』染め織り作家山口善久さんの作品展では、その主役は「苧麻(からむし)」という麻の一種の植物繊維でした。しかし、たくさんの作品の中で一際注目を集めたのは、「葛(くず)」から取った繊維で織られた作品でした。その光沢感のある美しさと、その元をたどると葛であるというギャップが魅力のようでした。皆さん口々に「え?? あのクズ??!!」となるのです。

光沢があり一瞬にしてその魅力は伝わりますが、繊維としてはなかなか脆いのが難点でもあります。繊維が脆いために縒り(より)をかけることができない、というのも特徴です。

さて、その展示会の期間中に複数の方々とお話しする中で、「ぜひ葛の採取の方法を習いたい」というお声を幾度となくいただきましたが、まずは伝える側(私たち)が葛繊維を習得しなければ始まりません。

そこで、葛が勢いよく伸びる夏を待ち、師匠である山口さんを講師にお迎えして、葛についての事前の勉強会を数人の友人とともに行ってまいりましたので、ここで概要をお伝えしたいと思います。

 

葛の繊維を取り出す工程は、一言で言って「とても大変」です。

葛繊維の美しさに辿り着くまでのすべての工程はほぼ1週間かかります。その間にドロドロ、ヌメヌメ、慣れない臭い、泥まみれ、草まみれ、汗まみれ etc. そして自宅に庭がないとできない作業でもありました。

 

1. 葛を刈り取りに

暑さが厳しくなる前の朝7時に集合。葛が生い茂る近くの小高い山の麓へ。

途中、この近くの公園の管理人のような人に声をかけられるも、「工芸ですか?」と第一声で聞かれました。「葛を採る人=工芸」という発想になるのはなんだかすごいことだと思いました。葛のツルでかごを編む人はいるかもしれませんが、繊維を取り出すというのはきっとめずらしいはず。

葉を落としてツルのみを丸くまとめる。次はこのまま茹でる工程になるので、ほどけないようにまとめておきます。

 

2. 茹でる

大きな鍋や寸胴で1時間半〜2時間程度茹でる。ツルを指で摘んでつぶせるくらいの柔らかさになるまで茹でたら、お湯を捨てて粗熱を取る。冷めたら水に晒してそのまま一晩置いておく。

 

3. ムロの中で発酵させる

草むらなどにヨモギを敷き、その上に葛を置き、ススキの葉を被せてこんもりとムロを作る。このまま3日間程度発酵するのを待つ。

発酵して外皮が柔らかくなったら終了

 

4. 水で洗う

プラスチックのような透明で固い皮だけを取り出し、周りのヌメヌメをきれいに洗い落としていきます。この作業が永遠に続きます・・・。本来は川のせせらぎなど水の流れているところで作業をしていたそう。簡単に川に行くこともできないので、台所のシンクなどでボウルに水を溜めて洗い流していきます。

こうなるまで指で優しく繊維を広げながら洗います。

 

5. すべて洗ったら束ねて米のとぎ汁へ

ヌメヌメを洗い流しても、葛にはちょっとした油分が残っているそう。米のとぎ汁に一晩浸けたら、取り出して水道水で軽く洗い流して、完成!

 

6. 天日干し

夏の作業なので、1時間ほどで十分乾きます。

 


作業は以上です。

天気との相談でもありますが、ほぼ1週間はかかる工程。

時間もかかり体力もいる作業でもあります。一般のお客様にお声をかけて募集してこれらの工程をお伝えするには、現状では場所などもご用意するのが難しく、今年すぐに教室を開く、ということにはなかなか動くことができません。

まずは、上記の工程をご理解いただいたうえで、その他ネット検索などしていただきながら、ご自宅のお庭などでご自身で試してみてはいかがでしょうか。環境や状況を整えたり、準備はしておりますが、今年中の開催はできないというのが正直なところですので、どうぞご理解いただければと思います。

教室開催をたのしみにしてくださっていた方々には申し訳ありません。いつか機会があればご一緒に。

手仕事は、細く長く、そしてさまざまな人の手に掛けられて育ち、残っていければ・・・そんなことが理想と常々考えているオーロラキッチン店主でした。

 

以上、長文をお読みいただきありがとうございました。